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「ポルフィの長い旅」13.5話 その3(完結)

 投稿者:はいじま  投稿日:2008年 6月23日(月)21時26分10秒
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   こんばんは。やっと完結しました。
 うまく話が落ちたかどうか分からないけど…最後まで読んでいただけば分かるのですが、14話以降との整合性を合わせようとするとやはりミーナにとってセーラは救世主にはなり得ませんでした。
 ポルフィの旅の最中にセーラに会わせるストーリーもいいかなと思ったのですが、そうするとミーナが出てこないので…。

(以下本文)

 夜になった。ポルフィとミーナは救護所のテントのすぐ外で向かい合っていた。
「セーラさんは言ってた、地震の前に自分が何になりたかったか、どうするつもりだったか忘れちゃいけないって。自分が他のものになっちゃいけないって。」
ミーナは軽く頷いた。
「これって、天国で母さんが僕たちに言っていることかも知れない。」
ミーナの顔は一瞬曇ったが、兄の話を聞き続けた。
「だから僕、決心した。お父さんの自動車修理工場を今度は僕がやる。いつになるかわからないけど、そのために僕は働くよ。」
ミーナは表情を全く変えず、黙って兄の顔を見ていた。
「ミーナ、お前がどうしたいかはゆっくり考えていいからな。」
ミーナは頷くと、静かにあの誕生日に歌った歌を歌い出した。
「上手いよ、ミーナ。お前の夢は歌ったり芝居をする人になる事だったな。」
ミーナの表情に、両親の死を知らされた後初めての笑顔が過ぎった。

 救護隊の朝は早かった。避難民が朝食を食べる頃にはもう何人かは次の救護所へ向かっていなくなっていた。
 セーラが出発すると聞いて、ポルフィとミーナは走ってきた。あの地震以来、ミーナがこんな勢いで走ったのは初めてだ。
「昨日はありがとう、セーラさん。おかげで僕は自分を取り戻すことができたよ。僕は決めたんだ、父さんの修理工場を作り直すって。」
「あなたはきっといつかお父さんの修理工場を作り直すことが出来るわ。その日まで何が何でもミーナを守って生き抜くのよ…」
 そう言ってミーナの顔を見たセーラは一瞬凍り付いた。ミーナが何かにすがるような表情で自分を見ているのだ。まるで「お母さん、行かないで…」と訴えているように見えた。セーラはそのミーナの表情を吹っ切るように、トラックに向かって歩いた。
「ポルフィ、ミーナ、自分を失わないで生き抜くのよ。」
「セーラさん、さようなら。」
 セーラを乗せたトラックが走り出した。ポルフィは笑顔で手を振っているが、ミーナの顔は深い悲しみの表情をしていた。ミーナはセーラと母親を重ね合わせ、セーラを本当の母と錯覚していたのかも知れない。そんな母が私を置いて何処かへ行ってしまったと思い込んでしまったようだ。
 トラックが見えなくなったところで、ポルフィはそんなミーナの様子に気付いた。彼はしばらく、妹にどのような声をかけていいのか分からなかった。

 セーラを先頭にした救護隊はポルフィ達がいた教会を離れ、次の救護所を目指してトラックを走らせていた。ほどなく、一行は壊滅状態となったシミトラ村に達した。
「セーラ様、この村の人々は全員隣村に避難しているとのことなので通過します。」
「分かったわ。」
(ここがあの子達が住んでいた村なのね…)
 トラックが隊列を組んで村の街道を通過する、街道沿いに壊れた建物と倒れた「パタゴス大ステーション」の看板を見つけたセーラは後続のトラックを先に行かせ、自分はここでトラックを降りた。
 破壊された家の前に立ったセーラは祈りを捧げた後に言った。
「パタゴスさんと奥さん、ポルフィはもう大丈夫ですが、私はミーナが心配です。あの二人を天国から見守ってくださいね。私の両親と一緒に…」
 セーラはトラックに戻ると、隊列に追いつくべくトラックを急がせた。と思うと今度はある家の前で止めさせた。村の有力者が住む家だったのだろう、1階にガレージを備えた立派な家は無残にも破壊され、瓦礫の中で立派な車が潰されているのも見えた。だがセーラが見つけたのはそれではない、瓦礫の中に1体の人形を見つけたのだ。
(ここにも女の子がいたのね。私がエミリーを大事にしていたようにその子もこのお人形を大事にしていたんだわ、その大事なお人形が瓦礫の中に置き去りって事は…)
 セーラはそっと祈りを捧げた後、人形を抱きかかえてトラックに乗った。そして走り出したトラックの中で、その人形を抱きしめて涙した。

 セーラと出会って以来、ポルフィは自然な表情で立ち回ることが出来た。そしてさらに精力的に妹の世話とザイミス親子の手伝いに力が入っていた。その変わり様は周囲にいた大人達を驚かせた。無論、彼は両親のことを忘れたわけではない。悲しみを乗り越えようと前に進み始めたところなのだ。
「僕はまた修理工場をやるんだ…そのためには家に行って父さんの工具を持って来なきゃ…」

 対してミーナは、セーラが去るとまたふさぎ込んでしまった。彼女は「母に似た女性」が近くにいるだけで安心感を感じていたようだが、その人がたった1日でいなくなったとき、また母を喪ったような悲しみに心を支配されてしまったのだ。そう、ミーナにとってはセーラが近くにいて心を癒してくれる時間はあまりにも短すぎたのだ。
 こうして、兄妹の心のズレが少しずつ開いていくのだ。このズレが、今後この兄妹にさらに過酷な試練を与えることになる。

 今日もギリシャの空は青く、とても明るかった。

…ポルフィの長い旅14話「ぼくはミーナを守る」に続く。

http://haijima-yuki.com/old_anime/index.htm

 
    (丘田けん) 彼ら兄妹の心の中から永遠に消えることはな
いでしょう、やさしかった両親のぬくもりは。
そして兄妹は忘れることはないでしょう、
セーラ嬢の熱い心を。

どのように苦しい試練であっても、ポルフィ
なら乗り越えて行けるでしょう。いつもセー
ラ嬢とお母さんが見守ってくれている。
ポルフィ、何かあったら思い出せ、セーラ嬢
が言った「他のものになっちゃいけない」を。

そしていつの日か、また家族四人で笑いあえ
る日がきっとくる。

ポルフィ、ミーナ、セーラ。この奇跡の出会
いを美しく演出してくださった、はいじま様
に、改めてお礼申し上げます。
 
 
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